生命の尊厳を守る「循環システム」で新しい価値を創出し、希望を感じられる時代を作ることに命を捧げたい
熊野英介
アミタホールディングス株式会社 代表取締役会長兼社長

他に類を見ない企業体「アミタホールディングス」

「私たちは、今こそ『社会的な課題を事業で解決する』という事業会社の本来あるべき姿を追求するときだと考えます。アミタグループは、近代が残してきた難問、つまり資源・エネルギー・食の自給と、廃棄物問題、地方の衰退、自然の劣化、人間関係の希薄化といった社会課題に、事業をとおして真正面から取り組む企業グループです(ホームページより抜粋)」

この、連ねられた社会課題の数々に取り組むのが、NPOでもなく、自治体でもない、アミタホールディングス株式会社(以下、アミタグループ)という、上場企業です。「事業が発展すればするほど、人と自然と社会の関係性が良くなるような企業のあり方」をもって、持続可能な社会、同社の表現で言えば「子どもたちの未来の尊厳を守る」社会の構築を目指しています。

事業は大きく2つ。ひとつは、企業の環境戦略を支援する事業です。今でこそ、企業が環境影響を意識しながら事業活動を行うことは当然のことですが、これまで大量生産・大量消費・大量廃棄をしながら利潤を追求することが世の流れであった中で、当事業は、企業の存在理由を問い直し「企業の社会化」を目指すための手段として位置付けられています。具体的には、将来的な環境制約下で企業が持続的に発展していくための環境戦略の立案、生産工程から発生する廃棄物の100%リサイクルを請け負う業務のほか、環境関連法を中心としたコンプライアンス支援、環境業務に関するアウトソーシングサービスなどです。

もうひとつの事業が、地域の未利用資源を活用したコンパクトな自立型の地域づくりです。現在、宮城県の南三陸町では、行政や住民と協働したバイオガス事業が展開されています。住宅や店舗から出る生ごみやし尿汚泥などの廃棄物を回収し、発酵させ、発電のためのバイオガスと液体肥料を生み出す取り組みです。このバイオガス施設を核に、関わる人たちを増やしながら、地域に付加価値をもたらし、地域を元気にしていくこと、つまり「自営力ある地域づくり」を目指すのです。

この2つの事業を柱に、社会に新たな価値を生み出し、持続可能社会を実現しようとしているのです。

 

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What is Value?」本当の価値とは何か 

自社ユニフォームにもプリントしている「What is Value?」。「本当の価値とは何か」。この問いかけが、熊野会長の原点だと言います。

熊野会長は現在60歳(平成28年6月現在)。彼が生きてきた時代というのは、近代文明の絶頂期と終焉期。日本は物質文明によって成長を遂げてきた一方で、環境破壊、毎年3万人前後も自殺者を出してしまう精神的貧困を生み出しました。

15歳のとき、ユージン・スミス氏の水俣病に関する写真集を目にし、公害問題や平和問題は経済問題や政治問題ではなく、人間問題なのだと気づいたと言います。時代というのは人間の行動動機が作り出す社会現象であり、行動動機が変われば時代が変わる。では人間の行動動機を変えるにはどうすればよいのか。

1975年に発行されたE・F・シューマッハー著『スモール イズ ビューティフル 人間中心の経済学』。「(経済学というものが、貧困や絶望、犯罪、ストレスなどの現実に触れない点を指摘し、)出直しが必要だという『時代の兆候』は、もう十二分に出ているのではないだろうか」という一節を読んで以来考え続けてきた、「本当の価値とは何か」。大量の物や情報の中で生きてきた人間には、「本当の価値」というものがもはや見えなくなってしまっていました。

そのような折、2011年3月11日に発生した東日本大震災。これが、彼が問い続けてきたことに対するひとつの答えを導き出すきっかけとなるのです。私たちが見たのは、大きな自然の力を前に、近代文明が築き上げたものが一瞬にして破壊された姿。そして、人々が自分ひとりでは生きていけず、相互扶助の中で生きていることに気づき、人と人との関係性に再び価値を感じ始めたこと、同時に「利他」の精神が多くの人を動かしたということでした。

 

キーワードは「関係性」 

近代文明において、人々は物質的な豊かさを手に入れるために、安価な輸入のエネルギー資源・食糧に依存し、その結果、生活圏にある山や里、海といった自然に対し無関心になり、豊かな風景や生態系を劣化させました。効率化や利便性が求められ、地域で受け継がれてきた知恵や技術は、手間のかかるもの、汎用性の低いものと位置づけられ衰退し、地方から都市へ人が流れ、またオートメーション化が進む中、人と関わる機会が失われ、孤独を生み出しました。

しかし、東日本大震災で津波被害にあった東北の地には、海や山と共にある暮らしがあり、自然に対して畏敬の念を持つ人々の姿がありました。かろうじて残る、手間をかけてつくられるものたちに、よそ者の私たちは強さや美しさを見ました。物々交換や結いの文化に、震災前は支え合いながらの暮らしが当たり前にあっことを知り、羨ましく思いました。物質的な豊かさは都会に敵いませんが、そこには精神的な豊かさがあったのです。

精神的な豊かさ。これは、近代が残した社会的課題を前に、物質的豊かさに変わって人々が求めていたもの。精神的豊かさを得るには、東北の地で私たちが垣間見た、人が自然と関わり、人と関わり、未来と関わり、価値を高め合い認め合いながら存在する暮らしをもう一度取り戻すことが必要です。他者のことや未来のことを考えて今を行動する、そのような利他的欲求をよりどころにしたコミュニティ=循環システムをつくることが、近代が残した社会的課題解決につながると熊野会長は確信し、今、命を捧げて取り組んでいます。

1977年に資源をあつかう商社からスタートし、前述の問いを持ち続けながら試行錯誤の中で進んできたアミタホールディングスは、震災後、定款を変更し「今後『自然資本』と『人間関係資本』の増加に資する事業のみを行う」ことを宣言し実行しているのです。

 

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(この記事は、アミタグループ発行による電子書籍、熊野英介著『思考するカンパニー増補版』をベースに作成しています。)

 

熊野英介(くまの・えいすけ) プロフィール

1956年兵庫県生まれ。アミタホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長、一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク副代表理事、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク理事、公益財団法人信頼資本財団理事長。持続可能社会の実現をかかげ、他社に先駆け資源化事業を開始、その後、ソリューション事業や地域支援事業を手掛け、環境分野を牽引。未来の子どもたちの尊厳を守ることをミッションにかかげ、豊かな関係性が動力となる新たな社会の創出に向けて邁進中。

 

 

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