覚悟としなやかさと、人と人とのつながりで、日本初の市民出資型風力発電事業を実現
鈴木亨
NPO法人北海道グリーンファンド 理事長

北海道グリーンファンドの「グリーン電気料金制度」事業

 

誰でも無理なく地球環境の保全に貢献できる「グリーン電気料金制度」と、再生可能な自然エネルギーによる市民共同発電所づくり、そして省エネルギーの普及に取り組むのが、今から17年前の1999年に、札幌に設立されたNPO法人北海道グリーンファンドです(以下HGF)。

「グリーン電気料金制度」とは、月々の電気料金に5%のグリーンファンド基金(寄付)を加えた額をHGFに支払い、そこから電気料金は北海道電力に、基金はHGFが毎年積み立て、市民共同発電所(市民風車)の建設と運用のために拠出するという仕組み。例えば1ヵ月の電気料金が8,000円だとすると、5%分の400円が月々の基金となります。5%分をさらに負担するのではなく、省エネ・節電して5%分の電気代を浮かせ、その分を基金にしようという呼びかけとなっています。

集まった基金に加え、市民による出資と、銀行からの融資などで市民風車を設置。現在、全国の18基、出力約29,000kW、約19,000世帯に相当するグリーン電力を生み出しています。

また、HGFだけではなく、次々と法人を設立し、再生可能エネルギー事業の企画開発や事業運営、各地の自然エネルギー事業でのファンドの組成や運営、再生可能エネルギー導入促進のための政策制度や仕組みの構築などを担い、自然エネルギー発電の事業モデルを汎用化させ、広げてきました。

 

今から約20年前、「ありえないことを実現させたい」と、資金も知識も経験もゼロの状態からこの事業は始まったのです。

 

運動の限界と事業で社会を変えることの可能性

 

HGF設立以前、鈴木理事長は東京の生活クラブ生活協同組合(以下、生活クラブ生協)の職員として働いていました。1986年にチェルノブイリ原発事故が起こり、食品の放射能汚染が問題となったことから、生活クラブ生協のメンバーは、食品の安全性だけでなく、エネルギーについても、安心安全なものはないものかと、意識を向けていきました。その頃、転勤先であった札幌の生活クラブ生協は、折しも泊原発運転反対運動の真っ只中にありました。組合員を中心とした大規模な反対運動でしたが、1、2号機は稼動し、1996年には3号機の増設計画が打ち出され、鈴木理事長は署名やデモなどの運動ではなく、もっと別のことで状況を変えていく必要性を感じます。社会的にも、電気事業法改正*1や京都でCOP3*2が開催され、環境への意識が高まりつつある頃でした。

生活クラブ生協の反原発運動の中で、鈴木理事長は一冊の書籍と出会います。『脱原子力社会の選択』です。そこには、自然エネルギー発電を市民の協力で事業化した米国の事例が掲載されていました。「これだ!」という直感の下、鈴木理事長は著書の長谷川公一氏を生活クラブ生協の勉強会に招きます。長谷川氏は、参加した組合員のお母さんたちに尋ねます。「月に電気代の10%を寄付してでも、自然エネルギーの電力をつくることに賛同する人はどのくらいいますか?」。すると、なんと参加者全員が手を挙げたのです。鈴木理事長は、少々高くても安全なものを食べたいという組合員さんたちは、エネルギーに関しても同じ意識を持っている、生活クラブ生協のノウハウで、市民出資のグリーン電力づくりも可能なのではないか、と思い始めるのです。

 

経験者でも専門家でもない素人だから実現した日本初市民出資型風力発電

「はまかぜ」ちゃん1歳誕生日 集合写真

電力事業やグリーン電力に関して全くの素人であった鈴木理事長。専門知識を持つ人や書籍から学び始めます。分からないことがあれば、著者に会いに行き質問し教えを乞うことも厭いません。脱原発運動の中では一見対立しそうな北海道電力とも、双方のニーズが重なり合う部分を探り、協力し合う関係をつくりました。こうして、3年後の1999年に生活クラブ生協内で「グリーン電気料金制度」がスタートし、その普及のためにNPO法人北海道グリーンファンドを設立します。

その2年後の2001年、北海道の浜頓別町に日本で初めての市民出資型風力発電(市民風車)「はまかぜちゃん」が誕生します。

風車一基に要する資金は2億円あまり。「グリーン電気料金制度」で集まった基金は当時1,000万円。それでも、自然エネルギーの実力と可能性を示したいと、風力発電による売電事業を目指し、資金集めに奔走します。1つだけ「自己資金が3割集まれば考えても良い」という銀行が現れます。鈴木理事長は、2億円の3割の6,000万円を何とかできれば道が開ける、と可能性を感じたと言います。手元には1,000万円の資金しかなかったにもかかわらずです。そして、可能性を信じる力が、周囲の人たちを動かします。

HGFの理事たちが出資し、さらに各理事が知人らに協力を呼びかけ、結果1,000万円の資金が3,000万円になります。また、地元新聞に「市民の力で風車をたてる」という記事が掲載され、「出資したい!」という問い合わせが殺到します。ファンドや金融について素人だった鈴木理事長は、再び持ち前の謙虚さと行動力で、書籍や専門家から学びます。そして、市民出資の仕組みをつくり、正式な出資を呼びかけた段階で、3,000万円だった資金が、1億4,000万円までになったのです。結果的に、8割を市民出資によって、2割を銀行からの融資によって調達し実現にこぎつけました。

 

大切なのは、謙虚さと、人と人とのつながり、しなやかさ

TOSHIBA Exif JPEG

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東日本大震災による福島原発事故後は、自然エネルギーに注目が高まり、より多くの地方で取り組みが生まれています。これを受け、2014年3月11日に、自然エネルギーによる“もう一つの電気事業連合”「全国ご当時エネルギー協会」を設立。「電気の素人たちが電力事業を興して持続させていくことは決して楽ではないが、小さな力を集めればできることも広がる」として、自然エネルギーの取組を拡散しています。

2016年4月1日には「電力小売全面自由化」によって、消費者が使う電力を自由に選べるようにもなり、活動はますます勢いを見せています。

鈴木理事長は言います。「事業としてやるにはリスクの責任は自分が取る覚悟が必要。そして高いハードルを越えるのに、必ずしも知識や経験は必要ではない。大切なのは、謙虚さと人と人とのつながり、そして型にとらわれないしなやかさ。」周囲から「ありえない」と言われた、市民出資型の自然エネルギー事業は、こうして生まれ、広がっているのです。

 

*1:発電事業への新規参入を拡大するもの。電力会社に電力を供給する事業に独立系発電事業者の参入が可能となり、電力会社への卸売りによる料金規制緩和により、電力会社が独立系発電事業者などから入札により電気を購入する場合の認可が不要となった。また、新規事業者が電力会社の送電線を使って他の電力会社に送電する「卸託送」の規制が緩和された。

*2:気候変動枠組条約第3回締約国会議。先進国及び市場経済移行国の温室効果ガス排出の削減目標を定めた「京都議定書」が採択された。

 

北海道グリーンファンド

 

鈴木亨(すずき・とおる) プロフィール

1957年北海道生まれ。自治体職員、生活クラブ生活協同組合職員を経て、99年、NPO法人北海道グリーンファンドを設立し、理事・事務局長に就任。2011年に理事長に就任。誰でも無理なく地球環境保全に貢献できる「グリーン電力料金制度」を開始し、日本初の市民出資型風力発電事業を行うとともに、市民風車のパイオニアとして各地の取組支援を行う。01年、株式会社市民風力発電、03年、株式会社自然エネルギー市民ファンドを相次いで設立、代表取締役を務める。12年9月に株式会社ウェンティ・ジャパンを設立し取締役副社長を務め、同年12月、一般社団法人北海道再生可能エネルギー振興機構理事長に就任。14年、全国ご当地エネルギー協会設立、理事及び北海道地区の幹事を務める。

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