社会性と経済性の両輪で、アイデアを次々とビジネス化するソーシャル・アントレプレナー
植木力
株式会社カスタネット 代表取締役社長兼社会貢献室長

次々と事業化されるアイデア

「プリンはね、嫌いな人いないでしょ。だからつくるならプリンがいい。ただ製造場所が問題。学校の給食室使えないかなあ。給食作り終えたら空いてるだけでしょ。他にも給食室は場所としてもっと社会に役立つ存在になると思うんやけど」。

もちろん、事務用品を通信販売する自身の事業構想ではありません。豆腐を作っている友人から相談されたことについて、考えを巡らせているのです。

これは一例で、植木の頭の中には、常に何らかのビジネスモデルと、社会を良くすることつながるアイディアがあふれています。そして目をきらきらさせながらその構想を楽しそうに語るのです。

 

京都にある株式会社カスタネット。オフィス用品のほか、専門工具や花、最近では防災用品などを扱う通販会社で、熊本でおきた震災でも同社のオリジナル商品が役立ちました。

この業界は、大手競合がしのぎを削っている、非常に厳しいビジネス環境です。そんな中、同社の経営が成り立っているのは、大手競合各社にはない、同社が持つ強みがあるからです。

 

創業と同時にカンボジアへの支援活動を開始

キャプチャ

植木は「大日本スクリーン製造株式会社」(現 ㈱SCREENホールディングス)という、京都に本社がある電子機器メーカーの社員でした。2001年、社内ベンチャー制度により、株式会社カスタネットを立ち上げます。注目すべきは、創業当時からカンボジアへのさまざまな支援活動を行っていることです。

使用済みトナーカートリッジを回収することで得られる収益を財源に小学校を建設し、翌年には同社のオリジナル商品の販売収益の一部を活用し、小学校に遊具を寄贈しました。

現在も国立小児病院に給食支援を行うなど、カンボジアへの支援活動を継続しています。

一連の支援活動を行うことになったのは、カンボジアに学校をつくった女性社長との出会いがきっかけでした。学校をつくったが子どもたちの文房具がないと彼女に相談された植木は、「私が文房具を送ります」と反射的に答えたそうです。彼女の思いに共感したこと、文房具は自身の事業の商材であることに加え、高校のころからボランティア活動を行ってきたこともあり、黙っていられなかったと言います。

 

本業を通じて社会的課題を解決する企業姿勢が支持を得る

圧倒的な力を持つ大手競合がひしめく中、カスタネットの経営は厳しいものがありました。創業2年目で6,000万の累損。3年目からは増収増益を果たすものの、リーマンショックの影響も受け、売上が3分の1まで落ち込むこともありました。

厳しい経営状況の中、彼が支援活動を続けている背景には、「同じ買うなら良いことをしているカスタネットから買おう」と、同社を選び購入してくれる顧客が増え、社会貢献活動がビジネスにもつながることを実感したことが大きく影響しています。

創業から5年目にはベンチャー企業では初となる社会貢献室を設置し、企業理念にも「カスタネットは、いつも社会と共鳴する企業をめざし、社会貢献と事業がシンクロナイズする姿を追い求めています」、「ソーシャルベンチャーが今後求められる企業像であると考え行動します」と明記。本業を通じて社会的課題を解決するソーシャルビジネスを同社の最大の特徴として展開していくのです。

2010年に発行した「小さな企業のCSR報告書」は、中小企業がCSR報告書を作成する珍しさと内容の秀逸さから注目を集め、全国の中小企業からアドバイスが欲しいと声がかかるようにもなりました。

 

京都発、ソーシャルビジネスのインキュベーション・プラットフォームを構築

カスタネットの社会活動はカンボジア支援にとどまりません。京都の町家を借り受け無料開放し、勉強会やイベント、交流会を催すなどの、社会的な活動拠点として役立っています。

2004年には京都を中心に、社会起業家について学んだり応援したりすることを意図し、仲間と共に「京都ソーシャル・アントレプレナー・ネットワーク(略称KSEN)」を立ち上げます。さらに、2011年には「一般社団法人京都ソーシャルビジネス・ネットワーク(KSBN)」を発足し、活動を広げます

すべてビジネスにつながる、そしてよい社会づくりにつながるとの確信から取り組んでいることです。先のカンボジア支援活動も、ひとつの「出会い」がきっかけで始まりました。多くの人、それも「社会を良くしよう」という志高く、困難をもろともしない「元気人」たちが集う場にこそ、ビジネスにつながるきっかけがたくさんある、と植木は言います。

現に、KSENのイベントがきっかけとなり、使用済みの点字用紙を手提げ袋として製品化し、授産施設の仕事を生み出す、などのビジネスが生まれています。

 

「儲かることとボランティアになることを同時に思い付くのが植木」

jobs_pic01_1463120314最後に、同社の社会貢献室顧問の一人でもある「公益財団法人さわやか福祉財団」の堀田力さんの言葉を借りて紹介します。

「・・・多くの経営者は、会社のCSRとは、儲かる事業をする会社が、その社会的責任として、儲からないが社会に役立つ事業を行うことだと考えている。ところが植木さんの頭は違う。彼は、儲けることを考えていても、それがボランティアになることを思い付くし、ボランティアを考えていても、それが同時に儲かることにもつながることを思い付く。そこが彼のすごいところである。考えてみれば、営利活動もボランティア活動もその顧客は“不特定多数の人”である。両社は「利己心」でやるか、「利他心」でやるかという点で、動機が異なるとされているが、現実には「利己心」と「利他心」を併せ持つのが人間で、だから両方の動機で活動する方がむしろ普通の状態だといってよい。そう考えると、特別な発想の持ち主のように思われる植木力さんが、実は標準的な発想の人ということになる。しかし、まだ標準に達しない人が実に多い。・・・(『小さな企業のCSR報告書』より。一部省略。)

 

植木力(うえき・ちから)プロフィール

1958年京都府宮津市生まれ。高校卒業後、航空自衛隊に入隊。その後82年、大日本スクリーン製造株式会社(現 ㈱SCREENホールディングス)に入社。01年、社内ベンチャー制度により株式会社カスタネットを創業。社会貢献室長も担いながら、カンボジアへの小学校建設や町家の無料開放など、ビジネスと社会貢献が融合する姿を追い求めている。

 

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