有機食材宅配のパイオニア。 無農薬のダイコン1本から社会を変える
藤田和芳
株式会社大地を守る会 代表取締役社長

有機食材宅配のパイオニア「大地を守る会」

今では一般的となった有機食材の宅配事業。そのパイオニアが株式会社大地を守る会です。

大地を守る会は、野菜だけではなく、肉・魚、加工食品、雑貨等を取り扱い、宅配事業以外にも、その特徴を活かした飲食店運営や惣菜事業を展開しています。

2015年3月末現在、「大地宅配」利用者数は約27万9,000人。食材を提供する生産者は2,500人。

自らを「ビジネスの手法において社会的課題を解決していくソーシャルビジネスである」と宣言し、事業を通じて日本の第一次産業を守り育て、人々の生命と健康を守り、持続可能な社会を創造することを企業理念としています。

難しいとされる「社会的課題の解決とビジネスとの両立」を実現した大地を守る会は、どのようにして生まれ、何が支持されているのでしょうか。

 

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団地での青空市からのスタート

約40年前の1975年。代表の藤田和芳が、サラリーマンをしながら都会の団地で曲がったきゅうりや、見てくれの悪いみかんを売る青空市から、大地を守る会は生まれました。

藤田は、岩手県胆沢郡胆沢町(現奥州市)の出身。水と土地の豊かな豊穣の地です。美しい場所で、豊かな環境が育む米や野菜を食して育った幼少時代。これが藤田の原点のとなっています。

東京に出てきた当初、水の不味さや、野菜の味が薄いということに衝撃を受けます。そして有吉佐和子さんの著書『複合汚染』(農薬の使い過ぎでミミズや土壌が次々と死んでいく様を描いたもの)にも影響を受け、豊かな土地や、美味しい農産物をなくしてはならないと、農薬や化学肥料に対して強い危機感を抱きました。

農村に何度も通い、農家の人たちに話を聞いていくと、彼らは「農薬を使わないと売れないのが現実。買ってくれるのであれば有機栽培に取り組む気持ちはある」と言います。そこで藤田は、無農薬の野菜の売り先を見つけ、広げるところから始めます。

当時、東京の団地には、田舎から都会に出てきて結婚し、子育て中のお母さんたちが多くいました。田舎に住んでいたことのある彼女たちは、おいしい野菜の味も知っていて、しかも子どもには安全な食材を食べさせたいと思っていました。藤田の売る野菜の存在はそんなお母さんたちの口コミでどんどん知られていくのです。

売る場所が増えてくると、売れ残りや機会ロスも出てきます。そこで、売る前に注文を取るようになり、共同購入という仕組みも含め、現在の事業スタイルへとつながっていきました。

 

ビジネスで社会問題を解決する

10394090_1209248972437145_6163845463179960749_n農薬を使わないことを働きかけるには、作物を作る生産者に対して「無農薬で作ろう」と説得して回る方法もあれば、メッセージを発して運動していく方法もあります。しかし藤田がとった行動は、まずは買う側、消費者側に対して、曲がっていようが、見てくれが悪かろうが、安全でおいしい食材があることを知ってもらうこと、そしてその人たちに野菜を届ける流通の仕組みをつくったことでした。つまり、運動だけではなくビジネスで問題を解決しようと動いたのです。

「大地を守る市民の会」として、農薬問題などに関する市民運動から始まった同社。現在も、農薬にとどまらず、原子力発電や、遺伝子組み換え食品に関してのキャンペーンやイベントなど、社会的活動を積極的に展開しています。こうした取組に共感した人々がファンとなり、大地を守る会を支えているのも大きな強みのひとつです。

2011年には、運動を行ってきた「NGO」と、ビジネスを行ってきた「株式会社」を「株式会社」1本に統合します。ソーシャルビジネスによって社会的課題を解決することをはっきりと表明していくためでした。

定款前文では、自らを「社会的企業家」であると宣言し、会社としてのポリシー、果たす役割を明確にしたのです。このような姿勢がますます共感をよび、利用者を増やすことにつながっているのです。

 

世界が抱える社会的課題解決に向けて

2013年にはローソンと業務・資本提携を結びます。TPP(環太平洋戦略経済連携協定)を意識してのことでした。安い輸入農産物が出回れば、国内の農家は大きな打撃を受けます。自分たちが築いてきた事業だけでは輸入農産物の勢力には対抗できないため、「ナチュラルローソン」も展開しており、環境や食に意識の高い消費者、大地を守る会にはない圧倒的な販売網、販売力を持つローソンと組むことで、安全で安心な食材を選ぶ消費者をもっと増やし農家を守ろうと考えたのです。

「全国に1万1000店舗あるローソンを八百屋に変えよう」と説得した藤田。仮に1日10キロの米が1袋売れれば、毎日100トンの米が売れることになるのです。

現在社屋のある首都圏を起点に、全国展開している宅配事業。例えば九州にいる利用者が「大地宅配」で地元産の野菜を購入しようとした場合、一旦関東を経由して届けることになります。藤田はこの問題に対して、かねてから流通拠点を全国に増やしたいと考えていました。今後、ローソンの物流センターを通じて、地元の農産物を中心に品ぞろえする「地産地消型の宅配ビジネス」も構想しています。

また農薬や化学肥料をとりまく環境問題は国内にとどまりません。現在、大地を守る会は、中国の農家にも日本の有機栽培技術やノウハウを提供し、宅配事業のビジネスを広げています。

「無農薬のダイコン1本を作って売るところからでも社会的課題は解決できる」と語る藤田。東京の団地の一角で、青空市から始めた事業を、今では海外にも展開し、世界が抱える社会的課題の解決に向けて、活動を加速化しています。

 

藤田和芳(ふじた・かずよし)プロフィール

1947年岩手県生まれ。1975年に有機農業普及のためのNGO「大地を守る会」を立ち上げる。1977年には株式会社化し有機野菜の販売を手掛ける。現在、株式会社大地を守る会代表取締役社長、ソーシャルビジネス・ネットワーク代表理事など兼務。著書に『有機農業で世界を変える』(工作舎)ほかがある。

 

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