陸前高田「匠ビレッジ」プロジェクト

伝統工芸や食・農の文化など、地域資源を生かした「匠の技」を創造する取り組みが岩手県・陸前高田で始まっています。目指すは地域福祉が充実した新しいコミュニティモデルの構築。生きづらさや働きにくさを抱える人も、誰もが「居場所」と「出番」を得られる地域づくりの試みです。

 

「働きたくても働けない」人が増えている

岩手県・陸前高田ではいま、誰にも「居場所」と「出番」がある、新しいコミュニティモデルの構築を目指し、地域福祉協働プラットフォーム「匠ビレッジ」の構想が進められています。

背景の1つにあるのは、多くの人が抱える生きづらさや働きにくさ。正社員としての働き口を得られず、経済的に不安定な非正規の立場を強いられている人が賃金労働者の4割にも上るなか、いわゆるブラック企業で疲弊して心のバランスを崩してしまい、なかなか「社会復帰」できずにいる人も少なくありません。「働きたくても働けない」状況にある人が増えているのです。

あるいは、心身に障害のある人の働きにくさは、いまに始まったことではありません。一般企業での就職が困難な人の就労機会として「就労継続支援施設」が設けられていますが、障害の程度や個性に応じた多様なニーズに答えられるとは限りません。

例えば陸前高田を含む気仙地域には、「B型」の就労継続支援施は複数ある一方で、「A型」事業所はありません。就労継続支援施設には2種類あり、1つは雇用契約を結ばず、利用者が作業分の工賃を受け取る「B型」。もう1つが、雇用契約を結び、原則として最低賃金を保障する「A型」です。気仙地域では、たとえA型の事業所で働きたくても、その能力を十分に発揮する機会がないのが現状です。

 

市長も公約。誰もが「匠」になれる機会を

こうした陸前高田の障害者雇用の課題と、働きにくさを抱える人の増加という全国的な課題を同時に解決しようという構想が「匠ビレッジ」です。障害の有無にかかわらず、効率一辺倒の働き方になじめない人が集い、仲間と出会って励まし合いながら心身を整え、また次の生き方や働き方を考える。すべてをそつなくこなす「ジェネラリスト」にならなくても、「この業務だけならがんばれる」という得意分野が1つでもあれば、誰もが「匠」になれるはず―背景にはそうした思想があります。

このプロジェクトは陸前高田市の方針にも合致します。東日本大震災からの復興にあたり、戸羽太市長は「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を公約に掲げています。誰もが安心し、協力しあって暮らせる社会の実現に向け、2015年7月には具体的なアクションプランも策定されました。そこには、多様な人材が能力を発揮できる就労機会の創出も盛り込まれており、「匠ビレッジ」が目指す姿は、そのまま市が描くビジョンの実現にも寄与するものとなります。

 

食・農の手仕事から始まる「匠センター」

匠ビレッジの特徴は、地域内外の多様な事業者が交流しながら、新たな事業を生み出そうとしている点です。「あすなろホーム」や作業所「きらり」など、地域の障害者支援施設はもちろん、200年以上にわたって醤油や味噌を製造している老舗企業・八木澤商店や陸前高田ドライビングスクールなど、地域に根ざした事業所が積極的に関与しています。また、障害者の就労支援を全国展開するアイエスエフネットライフや、以前から陸前高田の復興支援に携わるソーシャルビジネス・ネットワークなど、域外の事業者も参画しています。

匠ビレッジが最初に着手するのが、働きにくさを抱える人と働く場のマッチング。そのハブとなる「匠センター」を立ち上げ、地域内外の人材と地域資源を結ぶ準備が急ピッチで進められています。まずは食・農にかかわる既存の手仕事を先行し、ゆくゆくは「匠カフェ」「匠ファーム」「匠工房」など、自前の就業機会も設けていきます。さらに食・農以外にも、気仙大工のような地域の無形資産を継承できる人材育成も見据えています。

 

陸前高田は学びの宝庫!

東日本大震災で被災した地域は、さまざまな社会課題を抱える国全体の縮図だと言われます。被災地における就労困難者の問題は、まさにその好例でしょう。市が進める「誰もが安心し、協力しあって暮らせる社会」に総論では賛成でも、現場レベルではさまざまな葛藤や構造的な課題が山積しています。

だからこそ、裏を返せば実にいい学びの機会でもあるのです。いったん「リセット」を強いられた被災地で、地域福祉の先進モデルをゼロから構築できれば、日本各地に生かせるに違いありません。

理想の地域福祉のあり方を模索している人、雇用創出や地域づくりを担うNPOや行政関係者、地域活性化ビジネスの機会を模索している企業、もちろん、自身も生活に困難を抱える人を含め、さまざまな立場の人を巻き込みながら、生きた現場に学び、新しい現場を生み出していく―そんな刺激的なプロセスが陸前高田で生まれてようとしています。

 

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